
※本記事は、株式会社coiai代表・服部陽良がお届けする週刊ポッドキャスト第22回の内容を、読みやすく再構成した書き起こしです。
こんにちは。株式会社coiai代表の服部陽良です。
coiaiは、ものづくりを軸にシステム開発やプロダクト開発を行っているIT企業です。この番組では毎週月曜、創業者である私が「起業のリアル」を発信しています。
今回はいつもと趣向を変えてゲスト回。coiaiのメンバーでもあり、数学の研究をしている橋本勇(はしもと ゆう)さんが先日論文を提出されたということで、その中身についてじっくり聞いてみました。まずはいつもの今週のAIニュースから始めます。
今週いちばん気になったのは、OpenAIから「GPT-5.6」が登場したことです。
GPT-5.6は3つのモデルに分かれていて、
太陽(Sol)・地球(Terra)・月(Luna)というネーミング。いい名前ですよね。
Solの良いところは、セキュリティに強いとされている点。そしてもう一つ、会話がかなり自然になっています。実際に音声で話しかけてみると、これがなかなかすごい。番組内では即興で百人一首を朗読してもらったのですが、「天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」を読み上げたあと、
「この一首は、空の広がりと月への眼差しが重なっていて、静かな余韻が残るんだ」
と自分で解説まで添えてくる。喋り方の質感としては、「海外に長く住んでいた日本人」くらいの自然さでした。
まだコーディング用途では使い込めていないのでそちらの性能は体感できていませんが、音声に関してはかなり強いという印象です。
ここからが本編。ゲストの橋本勇さんをお迎えしました。番組初期には一緒にやっていた時期もあり、久しぶりの登場です。
橋本さんはこれまでいろいろなことをやってきた方で、仕事としてはIT業界の経験が数年、研究としては言語学と数学を主にやってきたそう。かなり珍しい経歴の持ち主です。「特異なバックグラウンドを持った人なんだな」と思って聞いていただければと思います。
今回、橋本さんが論文を出したテーマが Disjoint Covering System(ディスジョイント・カバリング・システム)。まず「これ、日本語で言うと?」と聞くところから始めました。
実はこのテーマ、日本語の定訳がほぼありません。日本で研究している人がほとんどおらず、日本語文献もほぼ無いとのこと。後半の「Covering System」の部分は、Wikipedia などでは「被覆系(ひふくけい)」と訳されていますが、日本ではあまり知られていません。強いて訳すなら「非交差被覆系」あたり、という話でした。
橋本さんの説明を、順を追って整理します。
まず土台にあるのが等差数列(arithmetic progression)。たとえば偶数の集合は「0, 2, 4, 6, 8 …」と、一定の幅でずっと続いていきます。こういう等差数列をいくつか集めてくる。
その集まりが、整数全体をすべてカバーしている(=どんな整数も、必ずどれかに入っている)とき、これを被覆系(Covering System)と呼びます。いろいろな数学の分野に出てくる、かなり基本的な概念だそうです。
Disjoint は「交わりがない」という意味。いちばん分かりやすい例が、偶数の集合と奇数の集合です。
つまり「偶数の集合+奇数の集合」は、重なりも漏れもなく整数を分けている= Disjoint Covering Systemになっている、というわけです。これは一番簡単な例で、ほかにもいろいろな例があり、全部を考えていくと未解明のことがたくさんある、そんな分野だといいます。
では橋本さんの論文は、この話のどこを進めたのか。
Disjoint Covering System の中には、ある条件を満たす特別なクラス(枠組み)があります。橋本さんがやったのは、そのクラスの「分類」。
ここでいう分類とは、「この条件を満たすものは、これで全部だ」と言い切れること。言い換えると、該当するものが有限個しかない(=すべてリストアップできる)と示すことです。
これまでは、小さいケースについてだけ分類が確定していて、規模が大きくなったときに本当に有限個しかないのかは分かっていませんでした。今回、橋本さんはそれを一般的に証明した。個別の小さな事象を一つずつ潰すのではなく、一段抽象度を上げて、一般論として証明した、というのが論文の結果です。
現在はレビューを受けている段階。ただし、この分野は「世界で3人くらいしか完全には分からない」ほどニッチなので、レビュアーも必ずしも同じ専門の人とは限らない、という世界だそうです。
橋本さんが次に狙っているのは、より一般の Covering System。Disjoint 側は論文が古いものが多い一方、一般の Covering System のほうが今ホットな話題で、最近も論文が出続けているそうです。
今回の研究は「自分が解きやすい問題にフォーカスした」側面があり、次はもう少しチャレンジングなことをやりたい。そのアプローチとして面白かったのが、昔の埋もれた研究を掘り起こして、現代の結果と結び合わせるという発想です。
昔の人たちは、今のようにインターネットもない制約の中で結果にたどり着いている。それが現代の結果と比べても遜色ないことがあって、それが埋もれている。そこを引っ張り出して現代と結ぶと、面白いことが見えたりする。
これ、ビジネスでもまったく同じだと思いました。番組では越後屋(三井の前身)の話をしました。反物を「端切れ(はぎれ)」でしか売らなかった時代に、一着分ずつ切り分けて売る、さらには付け払いのような仕組みを持ち込んだ。超昔なのに、今見てもすごいことをやっている人がいる。
学問は一方向に積み上がっていくものだと思っていましたが、「我々が考えていることは、大体すでに昔の人が考えている」。形を変えて再登場しているだけで、本質はもう昔の人が掴んでいることが多い。昔の人へのリスペクトを捨てないことは、すごく大事だという話でした。
エンジニアが日々AIを使うように、数学の研究もAIで根本的に変わりつつある、と橋本さんは言います。
数学の界隈では ChatGPT を使う人が多いそう。Claude を使う人はまだあまり見ないものの、最近一緒に触ってみて「すごく有用だ」と分かってきた、とのことでした。
数学には見慣れない記号が大量に出てきます。どうAIに読ませているのかというと、手書きした式を写真に撮って OCR で読ませるか、普通に打ち込むか。
Claudeのような大量のコンテキストを読み込める強みについては、橋本さんのやり方だと必ずしも効いていないそう。いくつもの論文を一気に読ませるのではなく、1本〜数本の論文を精読して、そこから議論を再構成するスタイル。「大量のものから1個見つける」より「より深いところを探る」使い方だからです。データドリブンに大量投入する研究者もいるが、自分はそうではない、と。
論文の発想(アイデア)はすべて自分。そのうえで、「議論のこの部分はこう簡略化できる」といった指摘をAIからもらって直す、という部分的な協働はしているそうです。
発想さえ固まれば、あとは爆速でできる。逆に言えば、時間さえかければ究極的には自分でもできる。
これ、プログラミングとまったく同じ感覚です。作る発想は自分たちがやらなきゃいけないけれど、実装そのものはAIが速い。全体像が見えて「こうすればできる」が分かれば、途中で出てくる問題は一つずつ潰していける——数学もソフトウェアも、ここは地続きでした。
最後に、これから数学を始めたい人へのアドバイスを聞きました。
橋本さんのおすすめは、勉強から入るより「問題を解く」ことから入る。
従来の数学は「積み上げ式で、一歩ずつ理解しないと進めない」と言われがちです。もちろんそういう面はあるものの、今はAIがあるので、解きたい問題から逆算して、必要なものを集めていくアプローチが取りやすくなっている。
まず作りたいもの・解きたい問題があって、それに必要な情報を集めていく——これはエンジニアリング的、ハッカー的なやり方。数学もそちらに寄ってきている。
「解きたい問題を見つけて、まずやってみる」。これがいい、という話でした。聞いていて、私も何か一つやってみようと思いました。
今週のゲストは橋本勇さんでした。またぜひ来ていただきたいです(次回は「服部の深い話を掘る回」にしよう、とのことでした)。
株式会社coiaiでは、Web開発 / XR開発 / 基幹システム開発 / オンプレミスAIの導入支援を行っています。
お見積りはなんでも無料です。他社さんに断られた案件、技術的に難しい案件、見積りが高すぎた案件も、方法を変えればもっといろいろな提案ができると思いますので、ぜひご連絡ください。
また来週月曜日。チャンネル登録して、来週も聴きに来てくださると嬉しいです。ありがとうございました。
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